1000冊読むまで死ねま千!小説生活を始めて読んだ小説を感想も含めてまとめてご紹介!【オススメ1000本勝負】
「池袋ウエストゲートパーク」の作者・石田衣良氏曰く
「書きたいジャンルの小説は1000冊読め」
というわけで、私が「ゼロから始める発達ハゲの小説生活」を始めてから読んだ小説をここにどんどん記録していこうと思います。
ひとまず「ジャンルは置いておいて1000冊読んでみよう」
を目標にどんどん読んで、感想と自分のお気に入り度合いを含めてここに追加していこうと思うので 、興味のある人はご覧になってください!
お気に入り度の★は3つで「面白い!」4つで「超面白い!」5つで「一生読むわ」になっています。
2019/8/16現在、一ヶ月経過時点で22冊!
それでは!行ってみよう!
古典・古き良き名作系
誰もが知ってるあの小説家たちの名作小説を、今更ながらに読み倒す。
「氷の涯」夢野久作 ★★★★★
シベリア出兵中の一等兵が退屈にかまけて、軍内で起きたとある事件の推理をし始めたらドンドン事件に巻き込まれて、日本軍やロシア内の赤軍・白軍にも追われてしまうお話。
主人公は「売国、背任、横領、誣告、拐帯、放火、殺人、婦女誘拐」という数え役満な疑いをかけられて、日本軍に家屋を借していた白軍の総元帥の娘・ニーナと一緒に逃避行をすることになる。
夢野久作ってこういう小説書くの?と驚いた作品だったんだけど、とにもかくにもラストシーンで全て持ってかれた。
ラスト2ページであんなにも昂揚して切なくなって、そこからの目玉飛び出るラスト1行が最高すぎる。
余計な説明いらないやつ。
一生読み返す。
「瓶詰の地獄」夢野久作 ★★★★
海洋研究所に役場から「潮流(海水の流れ)研究用に流れ着いたビール瓶送るね。中に手紙入ってるけどよろしく!」と3本の手紙入りの瓶が届く。
その中身を確認すると、無人島に漂流してしまった兄妹からの救助を求める手紙だった。
送られた時期の違う3通の手紙に書かれていた事実はいかに。なお話。
1回読んで意味がわからなくて、2回読んでやっぱり意味がわからなくて、3回読んでも意味がわからない。
とりあえず寝てもう一回考えて「あ!そゆこと!」と思ってネットで検索したら全然違うっぽい。けど「それもどうなの!?」な、真相が闇の中にある作品。
ここまで謎ばっかりなのに、読むのも読後に考えるのもめちゃくちゃ面白い。
夢野久作の書く人間臭さは個人的にツボ。
「羅生門・鼻」芥川龍之介 ★★★
いわずとしれた超メジャーな芥川大先生の「羅生門」と「鼻」なのであらすじ省略。
知らなくてもこのタイトルと「芥川」っていうので読む人は読む作品。
大人になってからちゃんと読み返すと、全くスルーしていた部分がすごく響いたりして面白い。
特に「羅生門」の最後の一文とか、「鼻」もつ滑稽さに隠れた切なさとかに「なるほどー」と唸っちゃう。
「走れメロス」太宰治 ★★
メロスが妹の結婚式のために町まで買い物に行くと、なんだか町の活気がない。
「どういうことでぃ!」とその辺のおっさんを捕まえて話を聞くと
「王様が人間不信になって、手当たり次第に家来もなんも殺しまくってるんだぁ」とのこと。
「そいつぁあオイラがゆるさねぇ!」と勢いマックスで王様をブン殴ろうとしたメロスは当然捕まり、処刑されることになるのだが
「妹の結婚式があるからそれまで待って!あ、友人のセリヌンティウス置いてくわ!」とハチャメチャなことを言い始め、セリヌンティウスも「うん!いってらっしゃい!待ってるね!」と気の触れた様ないい人ぶりを発揮する超有名作。
一生読むかよバカタレ!と思ってた「走れメロス」だけど、ちくしょう面白かった。
とにかくメロスにツッコミどころ満載なんだけど、「メロスは単純な男だった」から仕方ない。
最後に裸なのが「王様」ではなく、「メロス」という滑稽さがまっすぐ純情物語を装ったひねくれ具合を感じで面白かった。
「斜陽」太宰治 ★★★★★
正式作法は一切せず、自由奔放に振舞いつつも優雅で「本物の貴族」を思わせるお母様。
そんなお母様と戦後の変わりゆく中をどうにか暮らしていこうとする「世間知らず」の姉・かず子。
戦地で薬漬けになり、帰国後も作家や芸術家と呑んだくれて遊び倒す「劣等感の塊」の弟・直治。
戦後の「貴族であった一家」の顛末を、とても丁寧な言葉でしっとりと語り上げた作品。
太宰治の見る目が180度変わってしまった。
この人がこんな素晴らしい小説を書いているなんて、知らなかった自分が恥ずかしいレベルで惚れてしまいました。いやー、こりゃマジで恥ずかしい。
始終、地の文が「かず子」の『おっしゃられた』や『いらっしゃる』などの丁寧語で語られるんだけど、本当に綺麗な女性が語っている様で、それも相まった描写の美しさがとんでもないことになってる。
自らを「快楽のインポテンツ」と称した弟・直治の手紙の最後の1行と、道徳革命を完成させようとする姉・かず子の最後の一言は感動どころの騒ぎじゃない。
一生読み返す名作第二弾。
無敵。
◆NEW!!◆「芋粥」芥川龍之介 ★★★★
主人公の名前は明かさない。
位が低く身なりも粗末。大きな赤鼻に鼻水を垂らす貧相な面持ちで、周りの侍連中はおろか子供にも馬鹿にされる侍。それが主人公である。
小心者で情けない彼は、彼にも思いもよらない夢があった。
「芋粥を飽きるほど食ってみたい」
とある宴で無意識にそう呟いた彼を、とある侍がふざけ半分で「よし、食ってみるか」と彼を誘い出す。
噂には聞いていたけど、ここまで面白いとは思わなんだ!
言葉は難しいものの、主人公の「情けない」姿の描写も夢が叶ってしまいそうな恐怖も、胸に迫るようにリアルに伝わってくるのはすごい。さすが巨匠。
この物語の肝は「芋粥を腹一杯食べたいなんて情けない夢!」とかそういう話じゃなくて、簡単に言うと自分の夢にすら「無意識」にしか感じ取れていない、その上それが他人の手によって叶ってしまうことの悲しさにあると思う。
最後の芋粥を食うシーンは自分だったらと思うとゲロ吐きそうだ。
やっぱりすごいな芥川龍之介様。
本家芥川の切れ味の鋭さよ。
海外小説
ジャンルはさておき「海外作家」だけに焦点を合わせて集めてみました。
「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス ★★★★★
30過ぎの知的障害の男が、手術によって人工的に知能をアップさせる実験を受ける。
手術は無事に成功し知識を欲していた主人公・チャーリーの知能はみるみる上がり、瞬く間に天才の領域へと駆け上がっていく。
たくさんの本や文献を読みあさり渇望していた知識を得るに従って、研究対象である「自分」の人間として生き方に疑問を感じたチャーリーは、実験用ラットの『アルジャーノン』と共に逃避行を繰り広げる。
頭脳がかつての先生や友人・恋人を追い越し、知識と引き換えに愛を失っていくチャーリー。
そして遂には自分自身の研究によって、手術によって上がっ知能は一時的なものでいずれ元の知能レベルまで戻ってしまうことをしってしまう。
テーマを見ると「合理性と愛」とか「知識と愛」みたいな『あーはいはいそれな!』みたいに感じてしまいますが、小説として最高に面白いし素敵すぎる。
書き方が全編に渡り「主人公・チャーリーの手術経過報告書」として進んでいき、最初はひらがなのみの誤字脱字だらけのめちゃくちゃ読みにくいものが、徐々に賢く整然とした文章に変わっていく様で知能の向上を表現するのはさすが。
そして最後にお見事と言わんばかりのタイトル回収までしてくる無敵の作品。
名作と言われる作品はやっぱり名作ですな。
「アダムとイヴの日記」マーク・トウェイン ★★★★★
あの「アダムとイヴ」の日記が発見された!どうにかこうにか翻訳もできたしスッゲェ昔のモノだから著作権もないべ!
つーわけで晒すわ!
というノリで語られる「アダムとイヴの日記」。
前半はアダム目線で様々な出来事がコミカルに描かれ、後半では同じ出来事がイヴからの目線で描かれる。
『頭がトロくて自尊心の塊のアダム』へのたくさんの愛に溢れた『正体不明のおせっかいな生物・イヴ』の気持ちが暖かく切ない。
「トムソーヤの大冒険」のマーク・トウェイン、不朽の名作。
もともと雑誌か新聞の連載用に「アダムの日記」しか書いてなかったものを、後日「イヴの日記」を加筆して完成された「アダムとイヴの日記」。
前半ではおかしくてしょうがなかったアダムとイヴのやりとりが、後半になると一気にセンチメンタルに変わっていく様子は素晴らしいとしか言えない。
最後の一行は涙なしには読めない、超絶お気に入りの名作。
コレはアマゾンのKindle版しか見つからなかったのでご購入の際は注意!
トウェイン完訳コレクション アダムとイヴの日記 (角川文庫)
- 作者: マーク・トウェイン,大久保博
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2015/07/25
- メディア: Kindle版
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「異邦人」カミュ ★★★
太陽の眩しさを理由にアラビア人を殺し、死刑判決を受けたのちも幸福であると確信する主人公ムルソー。不条理をテーマにした、著者の代表作。
母の死の翌日海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日に大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎えてくれることだけを望む。
通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、理性や人間性の不合理を追求したカミュの代表作。
引用:Amazon
あらすじにAmazonを引用しているあたりでお察し頂けると思うけど、正直つかみどころがなかった作品。
いや本当にこの通りの作品なんだけど、かなり難解。
ただ「何言ってんのこいつ?」な作品ではなくて、同じアパートに住む犬を飼っている老人や、主人公であるムルソーの超有名な「太陽が眩しかったから」など「うぉお」と響く部分は大量にある。
面白くないかと言われたら超面白い。でも作品の60%も捉えられないまま読み終えてしまった作品。
もう少し経ったらもう一度読み直してしっかりと考え直したい。
「不条理の名作」と言われているけどそこまで不条理というわけでもなくムルソーは今でいうとこの「サイコパス」な人で、そのムルソーから語られる「世間」というものと「ムルソー」自身の果てしない距離が物語の根幹だと思う。
いやぁ、これは難しいよぉ。リベンジします。
文芸・純文学
判断が難しいのですが「エンタメ小説」じゃなさそうな小説たちを集めてみました。
「むらさきスカートの女」今村夏子 ★★★★
どこの町にもいる、ボサボサ頭で暗めなちょっとヤバめの名物おばさん「むらさきスカートの女」と、どうしても友達になりたくてしょうがない「私」。
あの手この手でどうにかお近づきになろうとするが、いまいちうまくいかない。
ついに「私」は「むらさきスカートの女」の自分の職場まで引き込むことに成功し、彼女の観察を続けていくが、次第に明らかになる新事実。
本当にヤバいのは、「むらさきスカートの女」ではなくて「私」?
『狂気』と『常軌』が入れ替わる、第161回芥川賞受賞の名作。
芥川賞もなにも知らない状態で表紙を見た瞬間に「あ!これ面白そう!」と買ってみたら大当たりの超絶面白作品。
あらすじのテーマ自体もすごく魅力的なんだけど、それよりなによりグイグイ読み進めさせる技術がものすごい。
キャッチーで笑える部分、「え?そうなの?」と驚く部分、胸が少し熱くなる部分と緩急も素晴らしくて読んでいて時間を忘れてしまうくらい。
最後のオチも個人的には『お見事!』な終わり方で、誰にでもお勧めできる「芥川賞作品」になっています。
芥川賞を受賞してからの帯がいきなりダサくなったのが残念ですが、必読の一冊。
「こちらあみ子」今村夏子 ★★★★★
あみ子は今15歳。最近、祖母の家に越してきた。
近所の小学生・さきちゃんがお友達。
さきちゃんはあみ子の「イー!」が大好き。
さきちゃんが「イーってしてください」といえば、あみ子は喜んで口を「イー!」ってする。
あみ子には前歯が三本ない。
恋する大好きなのり君にぶん殴られて、どっかに行ってしまったのだ。
そんなあみ子の「歯が無くなるような恋」と「家族」の昔話。
イーっ。
個人的に「むらさきスカートの女」と「こちらあみ子」のどちらが好きかと言われたら、即答で「こちらあみ子」と答えるくらい大好きです。
自分であらすじをまとめているくせに、もう思い出し泣きしそうなくらい大好き。
主人公・あみ子の「空気の読めない」行動はいわゆる発達障害の「アスペルガー」的なものなのですが、ひとつひとつがもう綺麗で重たくて。
それをあみ子の語り口を使ってひょうきんに、軽く明るく読ませる今村夏子氏のテクニックで次々と読み進めさせられてしまい、気づけばもうどっぷり。
「太宰治賞」と「三島由紀夫賞」受賞というのも、心の底から納得できる素晴らしい作品でした。
「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」高山羽根子 ★★★★
「私」は幼い頃に仏壇でお経を唱えるおばあちゃんの背中に「エロさ」を感じ、小学生4年生の下校中に「お腹なめおやじ」にお腹をなめられ、中学生では言い寄ってきたヘボい大学生のキンタマを蹴り飛ばし、高校では「絶望的に話のつまらない」友人・ニシダがいた。
それから大人になり、ひょんな縁見かけた大掛かりなデモの先頭で女装をしみんなを扇動するニシダを見かける。彼は今は「チャイカ」というらしい。
そして「私」は走る。記憶に追いつかれないように。
161回の芥川賞候補になった今作だけど、好みで言えば「むらさきスカートの女」よりもこっちの方が好き。
一文一文、次の行次の行と読ませる力は「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」の方が個人的には圧倒的に強かった。
ただ「語らなさすぎる」ことで「語りかける」力がちょっと裏目ってしまったのか、芥川賞の選評ではちょっと「むらさきスカートの女」に劣ってしまったみたい。
この作品はボブディランの「The Times They Are A-Changin'」の最初の歌詞からタイトルを取っているのだけど
この曲の歌詞を持って完成する感じがする。勝手な解釈だけど。
この作品が映像化されて、ラスト付近で「私」が走るシーンでこの曲が流れたら涙が溢れて止まらなくなるよ絶対。
「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」を読んで「ウーム?」だった人は、この曲を聴いて歌詞に目を通して、もう一度読んでみることをお勧めしたい。
小説としての完成度は「むらさきスカートの女」に軍杯が上がるけど、ひとつの作品としてならこちらが「むらさきスカートの女」を凌駕するものになっていると思う。
「如何様」高山羽根子 ★★★★★
戦後、平泉貫一という画家が戦地から復員してきた。
しかし戻ってきた彼は、出兵前とは似ても似付かぬ全くの別人の姿をしていた。
記者であり主人公の「私」は別人が貫一に成り済ましているのではないかと、貫一の友人である榎田に調査を依頼される。
果たして彼は「本物」なのか。偽物とは一体、何をもって「偽物」になるのだろうか。
「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」が第161回芥川賞の候補に挙げられた、高山羽根子の新作中編。
前作「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」と比べると、圧倒的な完成度の個人的名作。
ラストシーンの美しさは圧巻。
2019/8/16現在では書籍化がされておらず、小説 TRIPPER (トリッパー) 2019年 夏号 を購入して読むしかないけど、マジで本当に素晴らしい。
様々な登場人物が「変化前の貫一」と「変化後の貫一」を語る中、貫一の妻・タエだけは「今の貫一」を語ってその全てを受け入れている。
このタエの刹那的である前向きさと明るさが、全体の雰囲気に反比例して光を感じられてもうなんて言ったらいいのほんとこれ。
詳しい感想はこちらの記事で書いているので、興味のある人は是非読んでほしい。
「ピクニック」今村夏子 ★★★
女性たちがローラーシューズを履いて馳け廻る飲食店「ローラーガーデン」。
そこで働くルミたちの元に「七瀬」という年上の新人が入ってくる。
ローラーシューズは履けないがとても気配り上手で、ちょっと変わったところもあるが七瀬さんはすぐに輪に溶け込む。
そんな七瀬さんの恋人はなんと、テレビただいま売れっ子真っ最中のあの芸人!
見た目もおばさんの七瀬さんの言ってることは果たして嘘か誠か?
今村夏子節でお送りする、おかしい人間たちの笑えて悲しい人間ドラマ。
「こちらあみ子」にて書き下ろしの作品。
以前インタビューで今村夏子氏が『「こちらあみ子」以降は辛かった』というようなことをおっしゃってたのを読んだんだけど、偉そうなことを言うと「ピクニック」もかなり辛そうな作品でした。
はっきり言って面白いです。でもなんつーかなぁ。
読んでて「悲しさと辛さ」がすごいんだよなぁ作品の空気中の。
それも含めて「ピクニック」は面白いし悲しいし切なくて好きなんですけどね。
「むらさきスカートの女」や「こちらあみ子」のような『スッコーン!』っていう爽快感?はないので、ひしひしと悲しさに浸って読む感じ。
それにしても、作中の登場人物を「ルミたち」と「七瀬さん」っていう「1対多」で進行させていくのはびっくりした。
そのおかげでどんどん「七瀬さん」だけが浮き彫りになっていくのでこれはいつかパクりたい。すごい。
「百の夜は跳ねて」古市憲寿 ★
「設定だけは面白いのになー」と思ったら
その設定がパクり疑惑あって悲しくてしょうがない。
よくわからない「自分」が強い主人公、唐突に始まる意味不明のエロ、商品名やブランド名・値段の詳細表記、「オレ、頭いいでしょ?」って言いたげな文体。
とにかく苦手でダメでした。
今後も新刊出したらもう一冊は読むかもだけど、どうにもこうにも残念すぎな一冊。
ミステリ・推理小説
わかりやすい。みんな大好きミステリ・推理の小説たち。
「アリス殺し」小林泰三 ★★★
主人公で大学院生の栗栖川は、最近夢で「不思議の国のアリス」の夢を見る。
自分がアリスで周りはチェシャ猫やトカゲのビルなどが面白おかしく過ごす不思議の国。
そんな夢の「不思議の国」である日、ハンプティダンプティーが死んだ。
すると翌朝、大学で玉子という綽名の研究員が屋上から転落して死亡していた。
夢と現実がリンクする不可思議な殺人事件。
さぁ!犯人はだーれだ!
小林泰三氏は「玩具修理者」のイメージが強くて「ホラー作家の人!」と思っていたので、アリスを題材にしかもミステリを書くなんてびっくりしたんだけど
読んでみたら思いっきり小林泰三で安心しました。
ミステリ的なトリックとかその辺はボチボチな感じだけど、アリスの世界観をしっかりルイスキャロルしてたので面白く読めた。
ただ「ドロシー殺し」とか続編出しまくるほど?ってちょっと思っちゃう感じはある。
アリス好きは是非読んでもいい作品。
「リバース」湊かなえ ★★★
コーヒーが趣味の冴えなくもない、かといってはっちゃけてもいない文具メーカーの営業をこなす主人公・深瀬。
ある日、そんな深瀬の元に『深瀬和久は人殺しだ』という手紙が届く。
驚き慌てる深瀬だが、彼には心当たりがあった。
それは忘れたくても忘れられない、大学生の頃のとある事件だった。
コーヒーをテーマにした結構面白いミステリ。
最後のドンデンも「ぉおぅ」な感じで結構好き。
他愛ないアイディアからこういうトリックができるんだよなーってびっくりして勉強になった作品。
「ハサミ男」殊能将之 ★★★
美少女に狙いを定め、その体にハサミをつきたて殺害する「ハサミ男」。
今日も今日とて「三人目のターゲット」を見定め念入りに下準備を行うが、自分が突撃する前にどっかの誰かがターゲットを横取りしてしまう。
しかも死体にはハサミがズドーン!
え……。私じゃないんですけどー。
そして始まる警察とハサミ男の「真犯人探し」。
映像化もされたミステリの名作。
これは小説じゃないとできないトリックですな!
ドンデン返しの部分で「は?!が?は!?」とパニックになること請け合いのミステリの超有名作。
映像化されてるけどやっぱり内容変えちゃってるので、小説で見せる魅力ってこういうのだよなぁーって実感させてくれた個人的に思い入れの深い作品。
「十角館の殺人」綾辻行人 ★★★
大学のミステリ研の連中が孤島にあるいわくつきの「金田一はじめの事件簿」みたいな洋館にいったら、案の定バタバタ人が殺されて「犯人誰やねん!」を島の内外から推理する『新本格ミステリ』の金字塔。
こんな名作をこれだけで終わらせちゃうの恐れ多いのですが、どうしても『新本格ミステリ』後の世代のせいか結構クラシックなミステリを読んでいる感じになってしまった。
とはいいつつも、謎を解明していく場面は盛り上がるしもちろん面白い。
ただトリック自体は「それ結構無理ないか?!」と思っちゃったりもしつつ。
読んでおいて損は間違いなくない『新本格ミステリ』の名作。
「噂」萩原浩 ★★★★
「ねぇ知ってる?レインマンの噂」
「レインマン?」
「そうそう、女の子をさらって足首から下をちょん切っちゃう」
「やばくね?」
「そうそう、でも香水をつけてれば大丈夫なんだって」
「え?香水?」
「シャネルやckじゃだめ。ミリエルのローズが効くらしいよ」
女子高生の間の噂で広まる「都市伝説」なぞって行われる殺人事件を、しょぼくれた刑事と女キャリア刑事がタッグを組んで追いかけるミステリ。
いろんなところで「ラスト一行の衝撃!」って書いてあるけど、一行っていうか4文字だからね。
トリックの大どんでん返しが終わった後の最後の4文字の破壊力ったらアナタ。
ほんの小さな一手間でここまで最後の余韻と深みが出るなんて、マジで驚きだったのでこれは忘れないで心の中に止めて起きたいお気に入りのミステリ。
「傍聞き」長岡弘樹 ★★★
自分の娘の仇を救急車で搬送する救急隊員。
家にいる娘から【いつまで泥棒を追っかける気なの?】とわざわざハガキで伝えられる女刑事。
意中の女性の子供を火事場の中から探し出す消防隊員。
社会復帰施設の中で信頼が揺れ動く元受刑者と施設長。
最後のオチでひっくり返る、4つの人間ドラマ短編集。
短編が4つ、しかも全部読みやすいサイズでオチも「おー!」となれる良作。
一つ一つのクリティもすごいんだけど、各職業のリアリティの生々しさを伝えるのがものすごく上手で参考になる。
「きっと取材とかすごいしてるんだろうなー!」と思ったらなんと、長岡氏は『テレビとかでちょこっと見るくらいで取材はしない」そう。マジかよ。
ちなみに表題にもなっている女刑事と娘の短編「傍聞き」は『2008年日本推理作家協会賞短編部門』をベタ誉めで受賞している。
たしかにタイトルで「傍聞き」ってネタバレしてるくせに最後まで読めないのは秀逸。
「殺戮にいたる病」我孫子武丸 ★★★★★
女性との行為中に首を絞めて殺害し、イヤホンの一つを自分に、もう一つを死体に差し込み岡村孝子の「夢をあきらめないで」を聞きながら屍姦する。
その後、胸部と陰部を切り取って持ち帰る。
犯人の名前は「蒲生稔」。
彼を追うのは被害者の妹と、被害者が思いを寄せていた元刑事。
「真実の愛」を探し求め殺人を繰り返してしまう犯人を、悲しみから逃げるように出会った二人が追い詰めるサイコサスペンスの名作。
今まで読んだサスペンスミステリでぶっちぎりで面白かった。
冒頭が「エピローグ」から始まるんだけど、ラストまで読んでから戻ってくると見える風景が180度違う。
この壮大でシンプルなトリック自体も素晴らしいんだけど、それを差し置いても「テーマ」の語り方とストーリー、人間描写が一級品すぎる。
犯人の「蒲生稔」は決して快楽殺人者ではなく(性行為で快楽はあるんだけどさ)、一つ一つの殺人に信念と愛を持って挑み、毎度「これで最後にしよう」と決めて慎重にターゲットを探す。
ラストのトリック後で「え?!えぇ!?」ってパニクってるものあってか、この「蒲生稔」が最後にいく着く果てと、それを眺める一同の絶望のラストシーンは衝撃的すぎて立てなくなるほどだった。
テーマもトリックも含め、ミステリの本領をみた気がする名作。
多分一生忘れないし、あと2回は読み直すと思う。
雑誌連載系の小説
月刊・季刊雑誌で連載中のものを集めてみます(書籍化されるのかはわかりませんが)。
連作「Red Bully」金原ひとみ(第1回現在)★★★
シンガポールで家庭を持つ男と浮気中の「都合のいい港女」美玖。
浮気相手に旦那を奪われてしまった「恋愛的欠陥品」の弓子。
空気を読まずにズバズバモノ言う「苦笑いされる人生」のユリ。
バラバラの三人がお互いの価値観の違いに飲んで喧嘩し、それでも寄り合う人間ドラマ。
作者は「蛇にピアス」の金原ひとみ氏。
初めて金原ひとみ氏の小説読んだけど、女性の描写がものすごい生々しくて「ここまで生々しくて現実感あると逆にリアリティないな!」っていうくらいで驚いた。
そのへんのデコボコ感を「そんなこと言う女いないでしょ!」っていうのでちょうど中和させてるのか、結構読んでるうちに馴染んできたけどそれでもまだ「言い回し」にちょっと引っかかっちゃうなぁ。
私がおじさんだから??とは言いつつ普通に面白いので読み続けます。
◆NEW!!◆ 連載「そして、海の泡になる」葉真中 顕(第1回現在)★★★★
「うみうし様が答えを教えてくれるんです」
バブル期に"北浜の魔女"と呼ばれ『日本一の投資家』などともてはやされた朝比奈ハル。
高級料亭の女将だった彼女は経済のことは何も知らず、ただ「うみうし様のいうことを聞いているだけ」だという。
そんな彼女はバブル崩壊後、多大な損失を被り大手銀行の副支店長殺害の容疑で逮捕され2019年4月に獄中で永眠した。
彼女を取り巻く人々に聞き込みをし事件の経緯を追うが、"北浜の魔女"の印象も経歴も何もかもが食い違う。
「うみうし様」とは一体なんなのか?朝比奈ハルのどこまでが嘘でどこまで真実なのか。
証言を主体に全文が構成されたクライムサスペンス。
「ロスト・ケア」で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を、綾辻行人氏などの選考委員からべた褒めで受賞した葉真中 顕(はまなかあき)氏の連載小説。
全編が「雑誌の記事」と「証言」で構成されているので、語り手が地の文に一切登場しない手法がすごく面白い。これって元ネタあるのかなー?知りたいな。
証言者も年齢・イニシャル・性別のみしか明らかにされないので、証言の中の情報で「この人がミネちゃんだな」とこっちで把握しつつ読み進めていくのも楽しい。
証言者であるAが自分がカルト宗教出身であることをものすごくリアルで詳細に語るのが、物語の象徴である「うみうし様」の正体不明感と薄気味悪さを倍増させていくので、全体を漂う不穏な空気が超ワクワクする。
第二回がものすごく気になるオススメ連載小説。
エッセイ・小説じゃない系
物語ではないものの、面白かった「読み物」を集めてみます。
「たのしい知識 第一回-ぼくらの天皇(憲法)なんだぜ- 」高橋源一郎 ★★★★
「ぼくたちには知識が必要なんだ」
日本人なら誰でも知っている「日本国憲法」。
でも「憲法」ってなんだ?外国にも「憲法」ってあるの?あったとしたら日本と違いはあるの?っていうか「天皇」ってなんだ?「憲法第9条」ってよく聞くけど何?
日本で人権がない人なんているの?
こんな素朴な疑問を高橋源一郎氏が「読み物として」非常に面白く解説する。
入り口は「日本国憲法」という超絶興味のない内容だったにもかかわらず、読み終わる頃には「マジかよ超面白!」とドラえもんのアイテムみたいに気持ちを変えてくれるのはさすが高橋源一郎氏!
題材も内容も面白かったのは事実だけど、この内容を面白く読ますことのできる文章力はマジで学びたい。すごいよマジで。
面白い連載小説がなくなっても「たのしい知識」が続く限り小説トリッパーは買い続けそうです。
番外編「小説の書き方」シリーズ
小説を書くために!というわけで読んでみた「レッスン系」のものもの。
「『物語』のつくり方入門 7つのレッスン 」円山夢久
「小説を書くため」というよりも本当に「物語をどうやって作ったらいいのさ!」な人が読むといい本。
私は「コレ書きたいなー!どうやって書こう!」なタイプなのでほぼほぼ役には立ちませんでしたが「キャラはコレがいい!」とか「とにかく日常系が書きたい!」とか「俺TUEEEEしたいんだよ!」な人には良いかも。
書いている作者も小説家というよりは「物語教室の講師」をしている人なので、「小説が書きたい!」な人が読んじゃう微妙かも。
「1週間でマスター 小説を書くための基礎メソッド」奈良裕明 ★★★★
小説家の奈良氏が「小説の書き方」をテクニック面からメンタル面まで、初歩的な基礎をしっかりと教えてくれる良本。
「コレコレコレ!こういうのが聞きたかったんだよ!」をしっかりと語ってくれるので、小説初心者にはかなりありがたい本だと思う。
途中で実際に小説を読んだ上での設問があるんだけど、めんどくさがって飛ばしたりせずにちゃんと小説を読んでトライすることをオススメします。
その方が言ってることが情報から体験となって、しっかり身をもって実感で学べます。
やらないと損。
「書きあぐねている人のための小説入門」保坂和志 ★★★★
この小説入門はまさに「小説っていうのはこういうもんじゃ!」とアートとしての小説についてビシバシと教えてくれる本。
作者の保坂和志氏が芥川賞も受賞している小説家なので、読んでいてなかなかに刺さってくる。
職業作家じゃなくて「文学家」や「文芸家」としての小説について書かれているので、エンタメ系の作家さんになりたい人は読んでもあまり得るものないかも。
個人的には「オチを決めるな」「社会化されるな」「小説は小説を読んでいるときだけ存在する」などなど、大変「うぐぅ!」となることがたくさん書いてあったので非常に読んでよかった。
「デビュー作を書くための超「小説」教室」高橋源一郎 ★★★★
基本的な考え方とか「傾向と対策」みたいなものは「一億三千万人のための 小説教室 」とそんな変わらないので、こっちの本は 「新人賞に送ってみたいけどその前に『新人賞』って一体何よ?」な人が読むと結構いいと思う。
読み終わった時に「よし!じゃあどこかの新人賞に送るぜ!」とモチベがかなり具体的に上がると思う。
「一億三千万人のための 小説教室」高橋源一郎 ★★★★★
先ほど紹介した保坂和志氏の「書きあぐねている人のための小説入門」の中で
『書店に並んでいる「小説の書き方に書いてある本」で、直感的に何かを感じ取れるような内容なのは高橋源一郎の「一億三千万人のための 小説教室」くらいのものだろう』
と紹介していたので早速購入してみたところ
本当にこの本は素晴らしい。
この本は常にカバンに入れて持ち歩くことになると思う。
とにかく小説を書こうと思っているなら買って読め。
以上。